【夏休みのコラム③】作家村上龍氏と「13歳のハローワーク」


11年勤務したリクルート社を円満退社し、
2003年には株式会社トップアスリートを起業しました。

起業して間もなく、
たまたま本屋で立ち読みした1冊の本が、
株式会社トップアスリートの中心事業へと発展していきます。
その本とは、作家村上龍氏が子ども向けに書かれた絵本
『13歳のハローワーク』でした。
そして、本の冒頭にはこんな文章が書かれていました。
 
 
「1970年代のどこかで高度成長は終わりました。・・・(中略)・・・しかし今でも、人々の考え方や意識は、どこかでその成功体験を引きずっています。それは強烈な体験で、しかも成功体験なので、その考え方、意識を変えるのは思っているほど簡単ではないのです。・・・(中略)・・・
 いい大学に行って、いい会社や官庁に入ればそれで安心、という時代が終わろうとしています。それでも、多くの学校の先生や親は『勉強していい学校に行き、いい会社に入りなさい』と言うと思います。それは、多くの教師や親が、勉強していい学校に行き、いい会社には入るという生き方がすべてだったので、そのほかの生き方を知らないのです。・・・(中略)・・・わたしは、この世の中には2種類の人間・大人しかいないと思います。それは、自分の好きな仕事、自分に向いている仕事で生活の糧を得ている人とそうでない人のことです。・・・(中略)・・・
 『13歳のハローワーク』というタイトルにしたのは、13歳という年齢が大人の世界の入り口にいるからです。だからどうしても、世界が巨大に映ってしまって不安と戸惑いを覚えるのです。わたしは、仕事・職業こそが現実という巨大な世界の入口なのだと思います。」

かつて、リクルート社に在籍中、
「過去のパラダイムが変わろうとしているにも関わらず、
多くの大学生がそのことに気が付いていない。」
「有名企業に庇護してもらおうという『就社』の意識ばかりが強くて、
これからの社会で自分の人生をどうつかみ取っていくのかを
考えている学生もほとんどいない。」
そういった現状への問題意識は強くありました。
しかし、当事者である若者に対して
具体的に何をどう伝えていったらよいのか、
わからずにいました。

しかし、『13歳のハローワーク』の冒頭の「はじめに」を読んで、
私は、今までの漠然とした問題意識が、ずいぶんと整理され、
一筋の光明さえ見えたような気がしました。

そして、村上龍氏と出版社である幻冬舎様と交渉し、
『13歳のハローワーク』の公式WEBサイト
http://www.13hw.com/ )事業を展開することとなりました。

サイトには『13歳のハローワーク』に書かれた514職種の職業紹介がすべて読め、
また様々な観点から検索できるようにしました。
さらに、子どもたちの仕事に関する質問や疑問に、
その仕事についている大人たちが答えることができる
「インタラクティブ(双方向性)」な機能を加えました。

サイトがオープンして1年もすると、
月間10万人を超える子どもと大人がアクセスするようになりました。
(2008年には、月間約60万人がアクセスするようになりました)

サイトには、仕事に関する様々な質問が寄せられます。
それに加え、将来に対する不安や悩みのメールが後を絶ちません。
そうした、子どもたちからのメールを読んでいて、事態深刻さと、
その不安を解消する手だてがあまりにも少ないことを感じました。
そして、「希望の持ちにくい社会だからこそ、
子どもたちには夢や希望を持ち、新しい社会の担い手になって欲しい」
という思いを強く抱くようになりました。

藤原氏から
「私の後任として和田中の校長を引き受けて欲しい」
と依頼を受けたのは、このWEBサイトの運営が軌道に乗ってきたちょうどその頃でした。

当然、この事業には情熱をかけていましたし、
ましてや会社の社長として多くの社員や企業とも関わっていたので、
突然「校長になる」という選択肢を現実的なものとして
すぐには受け止められませんでした。

しかしながら、藤原氏の教育にかける熱い思いには共感しており、
奇しくも、会社で決めた行動指針は「すべては、未来の子供たちのために!」
というものであり、これも何かの縁かと思いお引受けすることになりました。

その後、社長の後任を探しながら、
会社の経営を引き継いでいく段取りを始めました。
また、和田中学校の学校運営協議会から正式に次期校長として推薦され、
東京都教育委員会の校長採用試験に合格。
2008年4月より杉並区立和田中学校の校長に就任することになりました。

次回つづく。


コメント

カテゴリー: 校長室コラム