【夏休みのコラム⑤】不易と流行


1年と4か月、
教育の現場にいるものの実感からすると
「公教育は崩壊をしている」のではなく、
「時代の変化に対応ができていない」
のだと思います。

現在、日本で起きている様々な変化は
人口増加を前提にした経済の構造からみれば
戦後から約60年ぶりのものかもしれないし、
中央集権的な国家の成立過程からみれば、
明治維新以来の約150年ぶりの変化かもしれない。
今は、そのくらいの劇的な変化が社会に起こっているのです。

そして、公教育の役割とは、
そうした変化の激しい社会の中でも
何らかの仕事や職業で生活の糧を得て、
一人の市民として自立して生きてけるように
子どもたちを育んでいくことです。
子どもたちが社会に飛び込んだ時に
「今まで学んできたことが通用しない」
「そんなはずじゃなかった」
と愕然としないように、対応しなくてはいけないと思います。

ここ数年、日本の国際的な学力の低下が報道されていますが、
そもそも学力を調査する設問自体が大きく変化していることは
詳しく伝えられていません。
先進国が集まるOECD(経済協力開発機構)では、
これからの21世紀社会を生きていくには
従来の学習でもたらされていた伝統的な学力だけでは不十分ではないか、
という問題意識のもとに、
1999年、教育学者、人類学者、経済学者、社会学者等が集まり
21世紀社会での個人の人生の成功と社会の持続的な発展を可能にする力を定義し、
学校学力を再編するために大きな指針を創りました。
その指針に基づいて2000年から始められたのが
いわゆるPISA調査と呼ばれる国際的な学力調査がです。

PISA調査では、一義的な正解を求めたり、
単一教科の知識を求めたりする設問から
記述によって自分の思考結果を書かせたり、
教科横断的な知識の活用が求めたりする設問を多くしています。

学力が世界一位となったフィンランドの教育が注目をされていますが、
フィンランドでは既に1990年代から
子どもの学力を上げるために、フィンランド・メソッドと呼ばれる教育手法を用いて
教育の最前線である学校授業のあり方を根本的に変革してきました。

「フィンランドの学力が向上したというより、
これからの社会で必要とされる学力に対して
フィンランドが他のどの国よりも先行して対応していたのだ」
と言う教育学者もいます。
事実、そのPISA調査において
テキストを読み正確な情報を取り出す『従来型』の設問においては
日本は世界一の回答率を得ているものも多くあります。
しかし、記述の設問に対して日本は回答率が低く
2006年の調査では、
読解力(15位)、数学的応用力(10位)、 科学的応用力(6位)
と全て科目において順位を下げています。
 
 
松尾芭蕉は「不易流行」という言葉を残しました。
「不易」とは、変わらざるもの、変えてはいけないもの。
「流行」とは、変わりゆくもの、変えなくてはいけないもの。
という意味で、
俳句を創るうえでは、
物事を表現する変わらない心構えを土台にして、
時々の出来事をとらえなければならない。
逆に、時々の出来事をとらえない俳句は、
根底に何があったとしても人の心をつかまない。
と自分の俳句理念を説いたのです。

教育においても
「不易流行」について同じことが言えると思います。
変わることなく大切なものとは、
他の人に対するいたわりや優しさの心、
そして丈夫な体を育むこと。
変えていかなければならないものとは
子どもたちが社会で自立して生きていけるために
必要な知識や学力をつける柔軟な態度、
だと思います。

しかし、学校は自ら変化をすることが
とても難しい共同体だと思います。
外部と接触する機会が少ないので刺激や影響を受けにくく、
変化をしないリスクよりも変化をするリスクを優先しがちです。
また、前例を踏襲するのが当たり前という習慣が支配的です。
変化や改善、スピードを前提にしてきたビジネスの世界から見ると
教育現場はとても特殊な世界です。

だからこそ、和田中学校では
これからの時代の変化に対応すべく、
自律的で定期的なイノベーション(変革)を繰り返していきたい。

生徒には、時代が変化しているからこそ、
学びのその先には何があるのかをイメージさせ
仕事や職業など具体的な選択肢を提示しながら、
「君たちが今勉強しているのはこういう意味があるのだよ」
とわかりやすく伝えていきたい。
さらには、、
どんなに時代が変化しても変わることのない人間として大切な生き方を
併せて伝えていきたい、

と考えています。
 
 
次回つづく


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